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実践リーンスタートアップ

作成: 2023年01月18日 06:01
更新: 2023年03月03日 09:04

Running Lean ―実践リーンスタートアップ (THE LEAN SERIES) | アッシュ・マウリャ, 渡辺 千賀, エリック・リース,  角 征典 |本 | 通販 | Amazon

概要

スタートアップには

  1. 課題・解決フィット
  2. 製品・市場フィット
  3. 拡大

という,3つのステージがある.

まずスタートアップは課題を見つけなければならない.課題は具体的には,

という形で記述される.例えば,

など.このとき,顧客の対象を広く取りすぎると,万人受けを目指しすぎて,本質を掴めなくなる.その課題を真に解決しようと欲していてお金を払う意欲もある人,すなわちアーリーアダプターに集中するべきである.顧客セグメントをしぼることで課題をシンプルに,より明確に理解でき,解決の精度があがる.

こうして課題を把握できれば,それに対する市場にまだないソリューションを考える.

例えば,

しかし,このように課題とソリューションを頭で考えるだけでは,

ということは分からない.

例えば先にあげた解決法についていえば,前者のような写真を共有するサービスはおそらく既に存在していて,後者のような厳選して紹介するサービスはお金を発生させないかもしれない.

このように,考えただけでは,それは仮説にすぎず,正しいかどうかを判断するためには,実行に移す必要がある.

具体的には,

  1. その仮説をテストできるような成果物をつくり,
  2. 実際に顧客に提示して,定性的・定量的に反応を測定し,
  3. その結果から仮説が正しいのか間違っているのか,間違っているとしたらどう修正すればよいのかを考える.

そうして得られた学習から改良された仮説をもとに

  1. 再び仮説をテストするための成果物をつくる

このループによって,正しい認識が得られる.これを図にすると次のようになる.

構築・計測・学習のループ - 西尾泰和のScrapbox

ここでアイデア=仮説を立てるとき,それは反証可能でないといけない.そうでない限り,どんな行動を取ればよいか分からないからだ.

例えば,課題を持っている顧客への経路を見出すために,

仮説 : ブログで宣伝してアーリーアダプターを集める

では曖昧なので,

仮説:ブログで宣伝して,1ヶ月以内にメール登録者を100人作る

とすることで,いつ仮説は正しいといえるのかが明確になり,それゆえ,仮説が正しいのか正しくないのかなんとも言えないまま,ダラダラと行動し続けることがなくなる.

では,仮説をテストするための製品=成果物は,どのように構築すればいいだろうか.

重要なのは,できるだけ早くループを回して,正しい認識をより早く獲得することであった.であれば,仮説を検証するための最小限必要な機能が備わった製品(MVP = minimum viable product)が最も適していることが分かる.

viableとは「ユーザーが求める機能をもち,生存できる」という意味である.だからMVPはユーザーが本当に必要としている最小限の機能だけをもつ.逆にユーザーがMVPに否定的なら,その機能は実際には必要とされていないことがわかる.つまりMVPは「機能Fは,課題の解決として有効である」という仮説を検証するために使われる.

MVPの分かりやすい幾つかの定義を述べよう.

MVPは最小限の機能を通じてビジョンを売り込むものであり、それは万人向けの製品ではない、ヴィジョナリーアーリーアダプターと大体同じ意味向けの製品である

MVPは、最小限の労力で顧客に関する有効な学習を最大量行うためのプロトタイプである.

ここでビジョンと言う言葉がでてきたように,顧客への解決策の提案は,製品の独自の機能・利点自体実際的には,これが市場に存在する競合との差別点,その商品の存在意義になるわけだが,それでも,それらをひっくるめてストーリーにまとめた方が良いということよりも,顧客の立場からその利点がどのような成功ストーリーに繋がるのかを語ったほうがよい.

例えば履歴書作成サービスでは

である.

また価格は,製品の印象を決め,顧客セグメントを決める.例えば同じドライヤーであっても,3000円のものと3万円のものでは,製品が与えるイメージが違い,どんな人が買うのかも変わってくる.また,お金をとることは,お金を払うだけのものを作れたという意味で検証にもなるため,初期の段階から価格を提示し,課金をすべきである.

顧客インタビュー

課題・解決フィットにおいて,顧客の課題を正しく認識するための方法の1つである顧客インタビューの方法論を見ていこう.

顧客の課題とそれに対してどんなソリューションがあり得るかを知りたい.が,それはこの段階ではもちろん分からない.そもそも,この段階では,顧客がどんなジョブを抱えているのか,ということすら分からないことが多い.仮説は,「顧客CがあるジョブJをするときに,ある課題Pを抱えている」という形だった であるから,顧客インタビューでは,何が分からないのか分からない状態で,自分が理解できていないことを相手に説明して貰う必要がある.

しかし彼らには,課題はあるものの,それを認識しているとは限らない.ましてやそれに対するソリューションを聞いて分かるわけではない.また課題を認識していても色々の理由から伝えてくれないこともある.だから,「何が課題なのですか?」とか「どんな製品,どんな機能を求めていますか?」と聞いても有効でないことがある.これについてはヘンリー・フォードの「顧客にほしいものを聞いていたらもっと速い馬が欲しいと言っただろう」という言葉がよく当てはまる.

だから,彼らの認識ではなく,彼らの行動を分析しなければならない.彼らは課題をうまく言葉にできないかもしれないし,課題に対するソリューションも知らないが,彼らの行動はそれを教えてくれる.その意味で顧客は常に正しい.

顧客へのアンケートは,少なくとも正しい質問,選択式であれば,それに加えて正しい回答が用意されている必要があるが,この段階ではそれらを言語化して作ることはできないためアンケートをとることは有効ではない.

感想

自分でスタートアップをしようと思う人はもちろん,そういうつもりはない人にとっても有用な本.なぜならこの本は,正しい認識のための方法論や効果的な行動にするための考え方をとても良く記述しているから.

スタートアップにおける成功は,世界に存在する課題を正しく認識し正しく解決すること,その結果としてお金が発生することである.結果としてお金が生じなければならないことは,スタートアップが存在できる領域に制限をかける.しかし,それは領域の制限に過ぎず,領域内で正しく認識し正しく行動する方法は,領域外であっても本質的な部分が大きく変わることはない.だから,スタートアップにおける成功の方法は,他のあらゆる領域での成功のヒントになると思う.