
実践リーンスタートアップ
概要
スタートアップには
- 課題・解決フィット
- 製品・市場フィット
- 拡大
という,3つのステージがある.
まずスタートアップは課題を見つけなければならない.課題は具体的には,
- 顧客CがあるジョブJをするときに,ある課題Pを抱えている.
という形で記述される.例えば,
- 幼い子供をもつ親は,大量のわが子の写真を自分の親達と共有する時に,自分の親達が扱えるテクノロジーの制限から楽に早く共有する方法がない.
- 知性のある人が,全く新しい分野に挑戦しようと入門書や入門動画を見たときに,表層的なことにしか触れない質の低いものが多すぎて,有効なリソースを見つけるのに時間がかかる.
など.このとき,顧客の対象を広く取りすぎると,万人受けを目指しすぎて,本質を掴めなくなる.その課題を真に解決しようと欲していてお金を払う意欲もある人,すなわちアーリーアダプターに集中するべきである.顧客セグメントをしぼることで課題をシンプルに,より明確に理解でき,解決の精度があがる.
こうして課題を把握できれば,それに対する市場にまだないソリューションを考える.
例えば,
- アップロードなど特別な操作が不要で高速に写真や動画を共有できるサービス
- ほんとうに質の高い本・動画だけを厳選して紹介するサービス
しかし,このように課題とソリューションを頭で考えるだけでは,
- 本当にそのような課題が存在するのか?
その課題に困っていて解決しようとしている顧客はいるのか? - それは解決に値するのか?
その課題を解決してお金が発生するのか?十分にたくさん顧客がいるか? - そのソリューションが本当に有効か?
- 顧客はすでに市場にあるソリューションをうまく使って,解決しているのではないか?
ということは分からない.
例えば先にあげた解決法についていえば,前者のような写真を共有するサービスはおそらく既に存在していて,後者のような厳選して紹介するサービスはお金を発生させないかもしれない.
このように,考えただけでは,それは仮説にすぎず,正しいかどうかを判断するためには,実行に移す必要がある.
具体的には,
- その仮説をテストできるような成果物をつくり,
- 実際に顧客に提示して,定性的・定量的に反応を測定し,
- その結果から仮説が正しいのか間違っているのか,間違っているとしたらどう修正すればよいのかを考える.
そうして得られた学習から改良された仮説をもとに
- 再び仮説をテストするための成果物をつくる
このループによって,正しい認識が得られる.これを図にすると次のようになる.
ここでアイデア=仮説を立てるとき,それは反証可能でないといけない.そうでない限り,どんな行動を取ればよいか分からないからだ.
例えば,課題を持っている顧客への経路を見出すために,
仮説 : ブログで宣伝してアーリーアダプターを集める
では曖昧なので,
仮説:ブログで宣伝して,1ヶ月以内にメール登録者を100人作る
とすることで,いつ仮説は正しいといえるのかが明確になり,それゆえ,仮説が正しいのか正しくないのかなんとも言えないまま,ダラダラと行動し続けることがなくなる.
では,仮説をテストするための製品=成果物は,どのように構築すればいいだろうか.
重要なのは,できるだけ早くループを回して,正しい認識をより早く獲得することであった.であれば,仮説を検証するための最小限必要な機能が備わった製品(MVP = minimum viable product)が最も適していることが分かる.
viableとは「ユーザーが求める機能をもち,生存できる」という意味である.だからMVPはユーザーが本当に必要としている最小限の機能だけをもつ.逆にユーザーがMVPに否定的なら,その機能は実際には必要とされていないことがわかる.つまりMVPは「機能Fは,課題の解決として有効である」という仮説を検証するために使われる.
MVPの分かりやすい幾つかの定義を述べよう.
MVPは最小限の機能を通じてビジョンを売り込むものであり、それは万人向けの製品ではない、ヴィジョナリー
MVPは、最小限の労力で顧客に関する有効な学習を最大量行うためのプロトタイプである.
ここでビジョンと言う言葉がでてきたように,顧客への解決策の提案は,製品の独自の機能・利点自体
例えば履歴書作成サービスでは
- 機能は「プロがデザインしたテンプレート」
- 利点は「見栄えの良い履歴書は目立つ」
- 成功ストーリーは「念願の職につく」
である.
また価格は,製品の印象を決め,顧客セグメントを決める.例えば同じドライヤーであっても,3000円のものと3万円のものでは,製品が与えるイメージが違い,どんな人が買うのかも変わってくる.また,お金をとることは,お金を払うだけのものを作れたという意味で検証にもなるため,初期の段階から価格を提示し,課金をすべきである.
顧客インタビュー
課題・解決フィットにおいて,顧客の課題を正しく認識するための方法の1つである顧客インタビューの方法論を見ていこう.
顧客の課題とそれに対してどんなソリューションがあり得るかを知りたい.が,それはこの段階ではもちろん分からない.そもそも,この段階では,顧客がどんなジョブを抱えているのか,ということすら分からないことが多い.
しかし彼らには,課題はあるものの,それを認識しているとは限らない.ましてやそれに対するソリューションを聞いて分かるわけではない.また課題を認識していても色々の理由から伝えてくれないこともある.だから,「何が課題なのですか?」とか「どんな製品,どんな機能を求めていますか?」と聞いても有効でないことがある.これについてはヘンリー・フォードの「顧客にほしいものを聞いていたらもっと速い馬が欲しいと言っただろう」という言葉がよく当てはまる.
だから,彼らの認識ではなく,彼らの行動を分析しなければならない.彼らは課題をうまく言葉にできないかもしれないし,課題に対するソリューションも知らないが,彼らの行動はそれを教えてくれる.その意味で顧客は常に正しい.
顧客へのアンケートは,少なくとも正しい質問,選択式であれば,それに加えて正しい回答が用意されている必要があるが,この段階ではそれらを言語化して作ることはできないためアンケートをとることは有効ではない.
感想
自分でスタートアップをしようと思う人はもちろん,そういうつもりはない人にとっても有用な本.なぜならこの本は,正しい認識のための方法論や効果的な行動にするための考え方をとても良く記述しているから.
スタートアップにおける成功は,世界に存在する課題を正しく認識し正しく解決すること,その結果としてお金が発生することである.結果としてお金が生じなければならないことは,スタートアップが存在できる領域に制限をかける.しかし,それは領域の制限に過ぎず,領域内で正しく認識し正しく行動する方法は,領域外であっても本質的な部分が大きく変わることはない.だから,スタートアップにおける成功の方法は,他のあらゆる領域での成功のヒントになると思う.
ボツ
そこで,
実験とは学習のループ
まず仮説を用意し,仮説をテストする成果物をつくり,実際に顧客に提示して,定性的定量的に反応を測定し,その結果から仮説がされたり,反証されたりする.そして仮説を修正し,再びテストする.このループによって,正しい認識に至り,成果物は正しい行動となる.
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スタートアップにおける仮説とはなにか.
課題・解決フィットにおける仮説は
-
その解決法Sは有効で,市場にまだない.
という形を取る.
具体的に,本文の例に即してみると
子供を抱える親(顧客)は,子供の写真を共有する際(ジョブ)に,共有のために大量の時間がかかるのが困っている(課題).その解決のために,を提供し,これは市場にまだない.
課題・解決フィットという初期の段階では顧客のなかでも,さらに絞ってアーリーアダプター,すなわち,その課題を真に解決しようと欲していてお金を払う意欲もある人に集中するべきである.顧客セグメントをしぼることで課題をシンプルに,より明確に理解でき,解決の精度があがる.
どうやって顧客にたどり着くのか.
どこからお金が入ってきて,どれだけお金が必要なのか.
である.例の子供を抱える親の場合,顧客でありユーザーである.ユーザーは実際に製品・サービスを使う人だが,彼らが金を払うとは限らない.実際に金を払うのが顧客である.だから顧客の課題を解決しなければならない.例えば,
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顧客の課題を正しく認識する方法としての顧客インタビュー.
顧客の課題とそれに対するソリューションを認識したい.が,それはこの段階で認識できていない.顧客はインタビューでは,何がわからないのかわからない状態で,自分が理解できていないことを相手に説明して貰う必要がある.
しかし彼らには,課題はあるものの,それを認識しているとは限らないし,ましてやそれに対するソリューションを聞いて分かるわけではない.
だから,「何が課題なのですか?」とか「どんな製品,どんな機能を求めていますか?」と聞いても意味がない.しかし相手=顧客も,自分が何をほしいのか認識していないこともあるし,認識していても色々の理由から伝えてくれないことがある.
だから,彼らの行動を分析し,かれらの課題が何なのかを理解することが必要.彼らは課題を認識していない,課題にたいするソリューションを知らない.
アンケートは,少なくとも正しい質問,選択式であれば正しい回答が,用意されている必要があるが,初期の状況では,これらは言語化することができない.
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・誰が何をする上でどんな課題をもっているのか.
・その課題にどんな製品・サービスで対処しているのか.
・その課題にどんな新しいソリューションがあるか,それは既存のものと比べて何が優れているか.最低限必要な機能はなにか.
・そのソリューションに金を払うのは誰なのか.ユーザーと顧客を区別する.
実際には顧客にどう近づくか(チャネル)や収益構造はどうなるか,など