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認知行動療法

更新: 2023年03月03日 10:13

認知行動療法の基本的な考え方

行動変容法におけるABCのみですべてが説明できるわけではない.例えば,同じ事象が起きても,人によってそれが報酬とみなされる場合もあれば,そうでないとみなされる場合もある.もっと一般には,ある状況下における人の感情や行動は,その状況や出来事に対する理解の仕方や解釈の仕方によって影響を受ける,と考えられる.そして理解や解釈は,世界をどう認識しているかというcore beleifから影響を受ける.生物学的な要因と,生育・発達の経過がcore beleifをつくる.

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認知行動療法では,非適応的な認知(=事象の理解・解釈の方法+根底にあるcore belief)と行動のパターンに気づき,修正することを目標とする.

もっとも簡単に気づくことができる,自動思考から始め,より根源的なcore beliefを認識する,という流れで説明していこう.

自動思考(automatic thoughts)

自動思考とは次のようなものである.

例)

同じ状況でも,単にAは何か考え事をしていたのだろうとか,遠くて声が聞こえなかったのだろう,と考える人なら,このような反応は起こらないことから,自動思考が,感情や行動に影響を与えていることが分かる.

そこで,この状況に応じて勝手に即座に浮かんでくる非適応的な思考を修正することが認知行動療法における一つの目標となる.

しかし,単にもっと前向きなことを考えよう,信じようとしても,うまくいかない.自動思考は自分にとっては合理的な解釈だからだ.

そこで,なぜこのような自動思考が生じてしまうのかを考えることが重要になる.認知行動療法において最も大切なのは,後述するように,自分の心の動きを意識し,観察し,考え,正しく認識することである.思考の変化はその結果として可能になることである.

例えば,自動思考が生じたとき,その根拠は何なのかを考えてみる.例で言えば,なぜAに嫌われたと考えるのか,Aが気づかなかっただけという解釈よりもこの解釈のほうがあり得るものだと考える根拠は何か.

「挨拶したときAとは確実に聞こえるくらい近い距離にいたこと」

一方,何かこの解釈を反証する点はあるか.

「Aは以前にも挨拶を無視したが,その後もAは普通に自分と接していた」

このように,根拠や反証を考えていけば,自動思考が唯一可能な解釈だという確信が薄れていく.自動思考に感じる合理性がなくなって,はじめてもっと適応的な解釈を採用することができる.

自動思考の改善の1つの流れとしては,

となる.その実践のためには,例えばこのようなフォーマットがある.

また,色々な自動思考に共通の特徴が認知の歪みとして抽出されているので,こちらも参照してほしい.

core belief・スキーマ

ここでは,パーソナリティ障害の治療を目的に生まれたスキーマ療法を参考にして話を進めよう.

認知行動療法は,多くの非適応的な思考に対して有効な方法であるが,有効となるためには幾つかの条件を満たす必要がある.
これらの条件は,例えばパーソナリティ障害(PD)などの場合には満たされない場合があり,ゆえにCBTの効果が減弱されてしまう.

問題の根本には基本的な世界認識,すなわちcore beliefとかスキーマと呼ばれるものがある.

これは,保護者など周りの人とのかかわり合いや経験した重大な事件(離婚,死別,事故など)から若年期に獲得されるものであり,それゆえ個性・人格を特徴づけ,修正は容易でない.そして,生育発達の状況と,生物学的な条件が組み合わさって非適応的なものになりうる.

スキーマ療法においては,非適応なスキーマは幼少期・思春期における中核的感情要求が満たされないことに起源を持つと考える.そこで,スキーマスキーマは早期不適応スキーマとも呼ばれる.愛着理論も参照

例えば,

どんな人でも,いずれ私を見捨てて私から離れていってしまうだろう

という見捨てられスキーマ(**Abandonment Schema ** Young,1990)がある.

このようなスキーマに対する応答としては,回避・降伏・過保障がある.

回避は,スキーマが活性化する状況を避けることで,例えば,人との親密な関わりを避ける.そうすれば見捨てられるかもしれない,と思う状況は生じない.

降伏は,スキーマに完全に応じることで,例えば交際している人がいなければ私は誰からも愛されてないことになると信じきって,一人でいるときには「誰も私を愛してはいないんだ」という自動思考を受け入れる.

過補償は,スキーマを恐れて反撃行動や過剰に補正することで,例えば,交際相手なら常に連絡を取りあって,互いの要求には完全に答えないといけないと考え,少し連絡への返信が遅いだけで「相手は自分から離れようとしている」という自動思考を生じる.

こうして自動思考や認知の歪みは,スキーマとスキーマに対する応答から生じるものだと理解でき,根本にあるスキーマの修正を目指す.
認知行動療法では,これらは自動思考を適応的なものにした後に行われることであるが,スキーマ療法ではむしろ,PDの患者がCBT実践にあたって抱える上記の困難から,はじめからスキーマに焦点を当てて治療を行う.

その方法として,

ACT

認知行動療法では,認知を修正することを目的としていたが,認知や感情は私とは関係なく勝手に起こるものであり,それはそれで受け入れて(Acceptance) ,自分の価値・望む人生の方向を設定しそれにコミットした行動をとる(Commitment)というもの.マインドフルネスにも近い.詳しくはwikipedia参照.

メンタライジング

紹介したCBT,スキーマ療法,ACT以外にも,様々な形態の精神療法が存在する.それらを列挙することはしないが,それよりも,それらの有効性は共通する特徴,すなわち「メンタライジング」に起因している,という主張を紹介して認知行動療法の後を終わりにしよう.

ここからの記述はメンタライジングの理論と臨床を参考にしている.

まず,メンタライジングとは
自分と他者の外的に観察できる行動の背後には心的状態があると想像する能力.
人間の行動を欲求や感情や信念といった心的状態を用いて解釈,理解する能力.
である.

そしてメンタライジングについては例えば以下のようなことを述べる

例えば,オープンダイアローグという手法は,メンタライジングを自然な形で教えることで症状の改善に役立っているのかもしれないし,精神分析についても,意識することが苦痛なために,無意識領域に抑圧された欲望を,色々な技法により表面化させて意識させることで,症状の改善を目指す,という点では,メンタライジングが基本姿勢であるといえるだろう.

参考史料

行動変容法と認知行動療法についての良いスライド行動変容法の項を書くときにも大いに参考にした.

スキーマ療法についてはこの公開資料と,この公開資料(https://www.jstage.jst.go.jp/article/keidaironshu/68/6/68_97/_pdf),そして『スキーマ療法 パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ』を参考にした.

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